拭き上げた食卓に
君の手料理が並ぶ

「どう？ おいしそうでしょ
ネット見ながら作ったんだけど
写真と違うの分かる？」

「んーと……野菜かな」
「そうなの！
コリアンダーが無かったから
代わりにセリ買ったんだけど
普通に食べれるよね？」

「うん、大丈夫……」
「でね、途中にある美容院！
今キャンペーンやってるんだけど
もうカラーリングの時期だと思わない？」

「そう言えば……そうか」
「でしょー！ そう思って
この週末に予約したから
日曜日はどっか行こうよ」

「海にでも行ってみる？」
「遠くもいいけど、知ってる？
デパートのセールが始まってるのよ
せっかくだから服も見たいな」

「ま……決めといて」

「あら、もう食べ終わったのね
どうだった？」

「うん、おいしかった」

……んだと思う

ごめんね
いつも中途半端で
ごめんね
いつも頼りなくて

気合いを入れ直しても
いつも息切れ
失敗を取り戻そうとしても
いつも空回りで

毎日どんどん
メッキが剥がれていき
また会うことさえも
億劫になってしまうよ

素顔を隠して
着飾ってみたかった
ただそれだけなのに……

悪いことじゃなくて
こういうものだと
思っていたのに……

コピーを頼んだり
買い物をお願いしたり
取引先のアポを依頼したり
面倒な文書作成を任せたり

決して暇じゃないのに
いつも快く
引き受けてくれる君

だから
のろ間な僕の能率も上がるし
つらい仕事だって
その笑顔で頑張れるのさ

でも一つだけ
願いを聞き入れてもらえなかったのが
とても残念だけど
まあ仕方ないか

うん
しょうがないね……

そんなわけで
今夜も僕は一人で食事

雑草を踏みながら
歩いて行こう
土をクッションにして
登って行こう

急斜面をあきらめて
舞い戻って来たのなら
なおさら
この道を進むのがいいよ

やがて下り坂
やがて静かな村
やがて穏やかな海へと

この手を離さなければ
きっと着けるから

ほんのちょっとだけ
遠回りになるけどね

じっと
見つめられた気がして
あわてて振り返る

でも
いたのは見知らぬ人々で
あわててそらす
そのぶつかった視線

当然だね
きみがいるなんて
全く有りえない話

だってここは
ひと月前にひっそり
越して来た街なんだから……

なのに結局
ブラシと一緒に
トランクのすき間に
挟み込んでしまってたよ

きみの思い出も